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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(ラ)3号 決定

本件行政処分停止の申立は、行政事件訴訟特例法第十條に基くものであることは、抗告人の主張により明かであるが、右申立を却下した原審の決定に対して爲された本件抗告の適否につき爭があるから、先ずこの点を案ずるに、同法第十條によればその第一項に於て行政処分執行不停止の原則を明らかにし、第二項に於て一定の要件の下に例外的に執行停止の決定を爲し得べきことを定めたが、この決定は第六項により何時でも取消し得るのであるから、第五項に於てこれに対し不服の申立ができないと規定したのであつて、第二項には却下の決定について定めるところがないから、第五項にいわゆる第二項の決定とは停止の決定を指称し申立却下の決定を含まないと解するを相当とする。元來任意的口頭弁論事項に対する不服申立の方法として抗告手続があるのであつて、本件は第十條第四項により任意的口頭弁論事項であるから、同法第一條民事訴訟法第四百十條に則り抗告を爲し得るものといわねばならない。右第四百十條にいわゆる口頭弁論とは必要的口頭弁論のみをいい、本件の如き任意的口頭弁論を除外するものと解すべく、もし反対に解するならばたまたま裁判所が口頭弁論を経たためにその事項の裁判に対する不服申立の途がふさがれるという結果になるから、かかる解釈は許されない。從つて本件抗告は適法であるというべきである。

次に抗告論旨について檢討する。

抗告論旨第一点は、縣議会の議長又は副議長は、縣議会が被告又は相手方となる訴訟又は申立事件の代表者となるとしても、縣議会が應訴の方針を決定する議決を爲すまでは該訴訟又は申立についての訴訟実施権を行使し得ないのである。本件については、前述の議決が未だになされていないのであるから、原審に於て西田副議長は訴訟実施権がないにも拘らず訴訟行爲を爲したのであり、これを許容して抗告人の申立を却下した原決定は破棄せらるべきである。又抗告人の主張は抗告人が議長の職を辞する意思を縣議会に対して表示していないにも拘らず、西田副議長が民主党縣支部長井村徳二等と相謀り、議長欠席の議会に於て抗告人たる議長が議会に対し辞意を表明した旨虚僞の報告を爲し、これに対し縣議会が許可の決議をしたのであるから、かかる決議は違法であるというのであつて、この事実から観察すれば西田副議長はこの事件の爭の中心人物であり、後に選任せられた鳥畠議長も亦西田副議長と相謀つたものであつて渦中の人たるを免れない。かかる者等は自己の行爲を正当ずけようとして努力するのは当然のことであつて、行政法規の正当な適用を確保し裁判の正確を期する爲に訴訟手続上被告又は被申立人たる地位に立たせられている縣議会の代表者として不適格であるといわねばならない。原決定はこの点をも看過した違法があるというのである。

しかしながら、地方自治法第百四條、第百六條によれば、議長は議会を代表し議長に事故があるとき又は議長が欠けたときは副議長が議長の職務を行う旨規定しあり、この議長又は副議長の代表権は特別の定なき限り民事訴訟法第五十八條の準用により法定代理人と等して訴訟行爲を爲すの権限を有するものというべく、地方自治法第九十六條第十号には地方公共団体が当事者たる訴訟についてはその議会の議決を必要とする旨規定しているが、縣議会の当事者たる訴訟についてはかかる規定がないから、議長又は副議長が代表者として訴訟行爲を爲すには議会の議決を経るを要しないと解しなければならない。又縣議会議長の辞職に許可を與える議会の権能は、縣議会の自律性を保持せしめるために地方自治法第百八條により規定せられた独自の権限であつて縣議会はその許可につき実質上の権利関係を有するが故に抗告人主張の如く單なる訴訟手続上の被申立人たるに止まるのではない。而して西田副議長及び鳥畠議長と抗告人との間に抗告人主張の如き本件申立事件について利益相反するものありとしても縣議会と鳥畠、西田正副議長との間には何等利害の衝突するところなく、その他右議長等に於てその代表権に基き本件訴訟行爲を爲すに支障となるべき理由はこれを認め難きを以て、本件抗告論旨はこれを採用するわけにはいかない。

抗告論旨第二点は、抗告人には縣議会議長の職を辞任する意思なく仮に辞意があつたとしても、民主党所属の副議長その他の役員と共に一斉に総辞職することを條件としたものであるに拘らず、昭和二十五年三月三十一日の議会に於てひとり抗告人の辞職のみを表明したのは抗告人の眞意に反し、かかる辞職の意思表示は無効であるといわねばならない。元來縣議会議長の辞職という如き重大な公法上の効果を生ずる行爲は明確を要するのであつて、辞職は要式行爲でないにしても、これを明確ならしめる必要上、從來行政法上の慣習自ら生じ議会宛の本人の辞職書を提出するか又は本人自ら議会に於て辞職の意思を表示することになつているのである。本件はそのいずれにも属しないし又辞意の傳達方を抗告人は何人に対し委任したこともないのに原審が乙第一号証の如き瞹昧な文書によつて抗告人の辞職を推認する如きは失当である。議会が辞職の意思もなくその表示もしない抗告人に対し許可を與えてもその議決は違法であるから、原決定を取消して右議会の辞職許可の議決の執行停止を求めるというのである。

しかしながら、縣議会議長の辞職行爲は、抗告人も認める如く要式行爲ではないのである。もつとも抗告人主張の如き方式の下に縣議会議長の辞職が通例行われていることは甲第十六号証によつても首肯し得るのであるが、かかる慣例が法的効力を有する行政上の慣習にまで成長しているとは肯認できない。從つて抗告人主張の如き方式によつて辞職の意思表示が爲されなかつたとしても、苟も議長本人が辞職の意思を決定し、かつその意思に基き議会に辞意が表示された以上その表示が文書によると口頭によると直接なると間接なるとを問わずこれを無効とすべきいわれはない。今本件についてこれを観るに成立に爭のない乙第一第十二号証に、原審並当審に於ける証人井村徳二の証言当審に於ける証人小倉健藏、高橋定栄、柴野良作の各証言を綜合すれば、昭和二十五年三月二十三日より二十四日にわたる民主党石川縣支部に属する石川縣議会議員並民主党石川縣支部長等の会合に於て党員の結束を図るため、民主党員にして議員たる者は議長副議長以下議会役員総員議会の役職を辞することを決議しその辞意を明かにするため、各自民主党縣支部長井村徳二まで辞表を提出したのであるが、抗告人も亦右決議に加わつてこれに賛同し、その縣議会議長たる職を辞する決意を明かにすると共にその処置一切を井村支部長に委任するため辞職届と題し「今般私儀縣議会議長を一身上の都合により辞職致度此段御取計を御願致します」と記載した同支部長宛の書面(乙第一号証)を作成しこれに署名捺印の上同支部長まで提出したこと、次で同月二十九日の右同種の会合に於て右辞職を同月三十一日の議会で行うことを決議し抗告人もこれに同意したこと、井村支部長は右抗告人の辞意並その委任の趣旨に基いて同月三十一日縣議会副議長西田與作に前示乙第一号証を手交して抗告人の辞意を傳達し、西田副議長はこれを受領して同日抗告人の辞職を議題に供し、議会はこれを許可したことを認め得べく、右に反する抗告人本人の当審並原審に於ける供述は首肯し難く、その他抗告人援用の各証拠によつては右認定を覆すに足らない。しからば、抗告人は自ら辞職の意思並議会に対する表明の時期を三月三十一日と決定して、これを井村支部長に告知しかつその辞意の議会に対する傳達方を同支部長に一任したものであり、同支部長は抗告人の右意思に基いて三月三十一日議会代表者たる西田副議長に抗告人の辞意を傳達し、ここに抗告人の辞職の意思表示は縣議会に到達したもので、右意思表示には何等の瑕疵がないといわねばならない。抗告人は仮に抗告人に眞実辞意があつたとしても他の民主党縣議会役員と同日一斉に総辞職する條件であつたと主張するが、これを認むべき資料なく、却つて前記各証拠に原審に於ける吉野耕造の証言及び西田與作の供述並に甲第十二号証(縣議会々議録四月十四日の部分)によれば、総辞職の決議は民主党に属する縣議会議員の役員は総員その役職を辞するの意ではあるが、必ずしも同日一斉にこれを行うことを要するのではなく、議会の運営上多少の日時を異にしても総員その役職を辞すれば足りる趣旨であつて、三十一日までに後任議長の詮衡成さざりしため、議会の運営上先ず抗告人の辞職を三月三十一日に、次で、後任議長の選任を待つた後四月十四日副議長以下民主党に属する縣議会役員の役職の辞任を行つたものであることが認められるから、抗告人の本主張は理由なく本抗告論旨はいずれもこれを採用することができない。

しからば、本件抗告はその理由がないからこれを棄却することとし抗告費用は抗告人の負担すべきものとして主文の通り決定する。

(裁判官 観田七郎 吉村国作 村上久治)

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